未来の里山研究会

たちが「未来の里山研究会」を
やる理由は、「未来の里山」を
現化する拠点をつくり、
SATOYAMAを日本が
文化として守り育てていきたいから【未来の山研究会 特別編】

2023年秋から『エーゼログループ』が始めた「未来の里山研究会」。
社内研修として、スタッフや近しい社外の仲間が参加しています。
これまでに2回開催され、さまざまな学びや発見を参加者どうしで共有してきました。
その内容は記事や映像で発信しています。

そもそも、「未来の里山研究会」をどうして始めたのか。
何が起こることを期待して、開催しているのか。
そこには『エーゼログループ』代表取締役の牧大介の見つめる、未来がありました。
今回は「未来の里山研究会」を振り返る、特別編の記事です。

いとして有しながら深めていく
来の里山研究会」

はじめに、「未来の里山研究会」を始めた理由を教えてください。

牧:僕は京都大学の学生の時、「人と自然」というテーマについて研究する生態学者や人類学者の人たちに囲まれて過ごしていました。そういう環境があった中で僕自身の修士課程の研究テーマが「里山」でした。里山というのは、「人と自然が共生しながらまじりあっている生態系」だと思っています。。かつての里山のような生態系を未来に向かって育てていきたいという気持ちで、「未来の里山」という言葉を『エーゼログループ』内で使っていたんです。

でも、みんなと話すと「そもそも里山って何?」という会話になりやすく、未来の里山とはどういうものなのか、何ができれば未来の里山と言えるのか、とても難しいなと感じました(笑)。

そこで、みんなで「未来の里山って何なんだろう」と考えていけたらいいんじゃないか、と思ったんです。分かりにくい言葉ですけど、それを分かりやすい、なんとなく分かった感じにするよりも、分かりにくい言葉をみんなで一緒に悩んでいくようにしたかったんです。

明確な答えにたどり着くというより、問いとして共有しながら深めていけると、『エーゼログループ』という会社がもっといいチームになるんじゃないかなと思い、みんなで勉強する場をつくろう、という気持ちから始めました。

「未来の里山研究会」の内容はどう決めていったのですか。

牧:僕は「人と自然がどうあるべきか」の前に、「人ってそもそも何なんだろう」ということにも、ずっと興味を持っています。僕は、人がいまだに苦手だなとも思っているんですけど、「自分たちは人という生き物である」という視点から未来の里山を考えれば、もう少し見えてくるのではないかな、と。「自分たちが人である。人という生き物である」ということを脇に置いて、自然がどうあるべきかをただ考えることには、そんなに興味がないんです。

京大のフィールドサイエンスの研究者たちが、昔からそうなんです。日本の霊長類研究の創始者として知られる京都大学名誉教授の今西錦司さんをはじめ、昆虫、植物、サルなどの研究者たちも「人って何だろう」という問いを共有しながら研究しています。一種の京大の文化なのでしょうね。それに僕も大きな影響を受けています。

講師を決めるとき、どのような視点で人選しているのですか。

牧:里山というテーマは、非常に総合的な領域です。何かを深く専門的に研究しているだけではなく、深さを持ちつつも、社会全体や未来を考えている視座がある方がいいなと考えています。。

深さと広さの両方を持っていらっしゃる方と対話をすると、僕たち自身の深さ、広さも育っていくと思います。。なので、そういう方を講師としてお呼びしています。僕たちは会社を運営していて、ビジネスとして展開していかないといけないので、ただ勉強して知的好奇心を満足させるだけではいけないんですよね。研究会を重ねて、さまざまな方と対話すると、それが僕らがビジネスにおいて挑戦を積み重ねていくための大事な無形資産になっていくだろうとも考えています。

人間というき物の特性が見え、
たいこと」もえてきた

第1回の講師は、京都大学前総長であり、現在は総合地球環境学研究所所長を務める山極壽一さんでした。

牧:先ほど、京大の研究者たちに刺激を受けてきた話をしましたが、山極さんもそのお一人。大先輩です。僕が学生時代に受けてきた刺激の蓄積のようなものは、僕の中で身体化されているんですが、うまく言葉にする力は僕自身にはありません。、山極さんはとてもつもなく深く広く人という生き物について考え抜いてきた方で、その上でみんなにしっかり届く言葉にする力を持たれている方です。そんな山極さんにお話をしていただき、「人と自然」ということについて仲間と共有できる感覚や言葉が増えて、ありがたかったです。

未来の里山のイメージについて、「間(あいだ)の世界」の入り口というお話があり、「あわい」という言葉を使われていたのが印象的でしたね。人と自然を考えるときに、それらを分けて考えない。人は自然でもあるし、自然の中に人もあるという。僕たち現代人は「AかBか」という話をしがちです。でも、AでもないしBでもないし、AでもあるしBでもある、という感覚の中に里山がある、と改めて思えておもしろかったです。

人類の祖先たちが共同保育を始め、仲間が持ってきた食べものを信じて食べたり、食べものを持ち帰るほうも仲間の期待を想像したりして、“ストーリー性”が人間の中に加わり、解釈や共有のために言葉が生まれた、という話も印象的でした。人間だけが特別にそういう感覚を持っていることを意識しないまま、人間をやっていたなぁ、と。人間が映画やテレビドラマを見て泣いたり笑ったり、共感したりできるのは、実際にあるものとは違う世界を脳の中でつくり、さらにそれを共有する性質を持っているから。それが人間という生き物の特性なのだろうなと感じました。

第2回の講師は、土壌学者の藤井一至さんでした。

牧:土は生態系の土台で、『エーゼログループ』の社名の由来にもなっています。藤井さんの土の話もとてもいい刺激になりました。会社の近辺の土壌を見ていただき、いろいろなお話をして「土づくりをしっかりやる場所をつくろう。土づくりから場所をつくっていこう」とも思えました。

藤井さんは科学者としてとても誠実に丁寧に論理的に説明してくださる。土壌というものがいかに複雑でよく分からないものかということを、非常に分かりやすく説明してくださいました。複雑でよく分からないものだからこそ、「土づくり」に関する試行錯誤を地道に長期的に続けていきたいと思いました。

『エーゼログループ』では「襷屋(たすきや)」という鰻・淡水魚料理のブランドを立ち上げていて、鰻の蒲焼の製造もしています。蒲焼加工で発生する残渣(頭、骨、内臓など)と、木材加工業でたくさん出る木くず、栽培が終了して抜き取るイチゴの株などを合わせれば、良質な堆肥ができそうだと考えています。いい堆肥をつくって、田んぼの土づくりができて、そのことでたくさん赤虫(ユスリカの幼虫)やプランクトンが増えて、それを餌にするドジョウがたくさん増える。田んぼから水路、そして川にドジョウが増えて、ドジョウを餌にする野生のウナギも増える。そういう複雑で有機的なつながりを取り戻して育てていくような土づくりに挑戦していきたいと思っています。

来の里山をテーマにした
アルな拠点をつくりたい

「土づくりから場所をつくっていく」とは、何ですか?

牧:実は今、未来の里山をテーマにしたリアルな拠点をつくる構想があります。山極さん、藤井さんのお話をみんなで聞いたからこそ、共通言語や認識が生まれ、議論しながら今その計画を進められています。

「里山は文化なんだ」というお話も山極さんにしていただきました。SATOYAMAを日本が誇る文化として磨いて、守り育てていきたいです。それを発信できたときに、より大きな価値が生めるのではないかという話が、社内で自然に出てくるようになってきています。そしてそこは、土づくりの拠点にもなる。人づくりと土づくりの拠点とも言えるのかもしれません。文化を育んでいく会社になりたい。それを土づくりから地道に積み上げていける会社になりたい。まだ2回しかやっていませんが、未来の里山研究会を通じて、僕たちがやりたいことってこういうことなんだな、ということが見えて来て、みんなのエネルギーが上がってきている感触があります。

完成までにおそらく3年ほどかかると思いますが、未来の里山を具現化していくための拠点づくりと、この「未来の里山研究会」が並行しているのは、大事なプロセスだと思っています。僕たちが学んだことの集大成が場所として結実していくのでだと思います。

これからの「未来の里山研究会」も楽しみです。ありがとうございました。